シュークリームのお店ハイデルベルグ

No.06

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

路面電車の窓から見える

あの店のシュークリームは

家族の💛の味がした。

広島の街を縦横無尽に走る路面電車。本日の絶メシの舞台は、その線路沿いに建つ歴史ある洋菓子店。広島電鉄・天満町電停のホーム正面にある「ハイデルベルグ」は、電車が電停に停まったときいつも正面に見えることから、「ずっと気になってた!」という広島人も多いお店だ。店の自慢のシュークリームの取材に向かった調査隊を待っていたのは、やさしい空気のご家族のラブにあふれたエピソードだった。

(取材/絶メシ調査隊  ライター名/清水浩司)

 

2代目父・母・3代目息子
共同作業のシュークリーム

ライター清水
「さて、今日もはじまりました『路面電車でゴキゲンYOU!』。今日の旅人は絶メシ調査隊広島支部の清水浩司です。広島といえば路面電車、通称チンチン電車。街中を路面電車が走る風景って風情がありますよネ。そして電車の車窓から見える店舗にもイイ店イイ味がいっぱいあるんです。吊革につかまって揺られながら『ああ、イイ感じのお店だ……途中下車して行ってみたい……』なんて思ったりしてネ。今日お邪魔するのは、まさにそんなお店。ちなみに上の車両は広島電鉄が大阪電鉄から譲り受けた、今ではレアなレトロ車両でございます(←鉄分注入)」

と、町ぶら番組の体でライター清水が向かったのは西区観音町にある「ハイデルベルグ」。ここ、広電市内線・天満町駅ホームのまさに真ん前にあるのだが、電車が電停に停まってるとき店内の様子が見えるのだ。それはまさに古き良き洋菓子店の雰囲気で、郷愁を誘ってやまないところがある。高校時代によくこの路線を使っていたライターも、ずっと気になっていたけど行ったことがなかった店。念願かなって、今回初の来店である。

ライター清水

「こんにちは、取材にまいりました。実はこの店、ずっと気になってたんです」

常雄さん

「はあはあ、ありがとうございます。ちょうど今、シュークリーム焼いとるところですよ」

電車から見てたお店の印象通り、やさしそうなお人柄。物腰も口調もとってもマイルド。さすがシュークリームだけに、フワフワのシュー生地で包まれるようである。

ライター清水

「ではさっそく自慢のシュークリームができるまでを見せてください。あれ、そちらはどなたですか?」

常雄さん

「息子のリョウと言います。涼しいと書いて涼。涼しいかどうかはわかりませんけど……はっはっはっは」

ライター清水

「あ、この店、ちゃんと跡継ぎがおられるんですね。絶メシの心配はなさそうで安心しました」

常雄さん

「シュークリームは息子が担当してるので、まず生地づくりからやらせましょう」

ライター清水

「ハイ、よろしくお願いします」

めっちゃ手伝ってるし……

ライター清水

「涼さん、手慣れた手つきですね。もう任せちゃって大丈夫じゃないですか?」

常雄さん

「ええ、バッチリだと思います。なので私はそろそろ隅の方へ……はっはっはっは」

めっちゃ手直ししてるし……

常雄さん

「これでオーブンで15分焼きます。ウチは食べるとき皮が柔らかい食感になるよう、高温で焼くようにしています」

15分経過……チーン!

常雄さん

「焼けたようですね……見てみましょうか」

3代目、置き去り……

ライター清水

「次はシューにクリームを詰める作業ですよね。あら、こちらはどなた?」

常雄さん

「妻の玲子です。クリームを中に詰めるのは妻の担当なんです」

ライター清水

「クリームの特徴は?」

常雄さん

「ウチのクリームはカスタードですけど、卵の黄身と牛乳を炊いたソース・アングレーズの味を引き立てるようにしています。卵の風味を活かす感じです」

 

なんだかんだで、父、母、息子、親子3人の合作となったハイデルベルグのシュークリーム(140)。さっそくいただきましょう!

ブルンとした弾力のカスタード
昭和が薫るシアワセお菓子

ライター清水

「実はこう見えて、僕、甘いものが大好きなんです。スイーツおじさんなんです。本当はこういう取材は女性の方がいいんでしょうけど……」

常雄さん

「はーっはっはっは。いやいやいや、ありがとうございます」

 

それでは、絵面がおじさんで大変恐縮ですが、パクッといかせていただきます。

 

レッツ・シュー!

ライター清水

「あ、皮が柔らかい。フワフワで溶けるみたいに食べられますね。そこからカスタードの甘さがジワーッと。コレ、やさしい甘さですね。なつかしい甘さだし、甘すぎないのがイイ」

常雄さん

「ありがとうございます、ふっふっふっふ」

ライター清水

「カスタードの味に深みがありますよ。薄皮のシューとの相性もぴったりです」

常雄さん

「ええ、そうですか……アングレーゼは炊き方で全然風味が変わりますからね」

ライター清水

「今年創業75年ですけど、75年間でシュークリームの味は変わりました?」

 

常雄さん

「創業当時は和菓子屋だったのでシュークリームは作ってなくて。作りはじめてからも牛乳がない頃は練乳を使ってたし、今の味になったのは私がヨーロッパの修行から帰ってきてからです」

ライター清水

「ハイデルベルグの歴史、じっくり聞かせてください!」

常雄さんの父である常義さんがハイデルベルグの前身である「住田製菓」を創業したのは1947(昭和22)年。戦争が終わってわずか2年後、廃墟にバラックを建て、きんつばなどの和菓子を作りはじめた。当時はもののない時代。甘味の需要は高く、作れば飛ぶように売れていたという。そこから高度成長期に向かう中、住田製菓も「二文字屋」と屋号を変えて大きく躍進する。洋菓子にも進出し、工場を構え、広島バスセンターや廣島百貨店、天満屋、サンモール、イズミ祇園店(現ゆめタウン祇園)などに商品を卸すようになる。

ライター清水

「常雄さんは2代目として跡を継いだわけですけど、もともと家業を継ぎたかったんですか? そうでもなかった感じですか?」

常雄さん

「うーん、半々といった感じですかね……親父が『何がなんでも!』って感じだったので」

玲子さん

「この人は一人息子でしたから」

ライター清水

「てことは、他にやりたいことがあったんですか?」

常雄さん

税理士や会計士をやりたいと思ったこともあったんですけどね。大学も修道大学の商学部ですから」

玲子さん

「いや、大学のときはもう継ぐ感じになってましたよ」

ライター清水

「家業を継ぐことを決意して、ヨーロッパの修業に行かれたんですね。それは親父さんに『修業してこい!』って言われたから?」

常雄さん

「それは自分から。『このままじゃ継げんから修業に行ってくる』って言ったんです。25歳から1年間、スイスのルツェルンとドイツのデュッセルドルフで修業して、フランスとオーストリアの製菓学校にも行きましたね……」

75年目のハイデルベルグを巡る物語。長い歳月の中には、アッと思わせる意外なエピソードが眠っているものである。

お店の歴史の話のはずが、
気付けば2人の恋バナに!?

ライター清水

「この店の名前は常雄さんがつけたんですか? ハイデルベルグってドイツの街の名前ですよね。どうしてこの名前に?」

常雄さん

あの街のロケーションが気に入ったんです。ヨーロッパの修業中に訪れたけど、中世のお城が有名でね。あと、『アルト・ハイデルベルク』という恋物語もありますし……」

ライター清水

「恋物語ですか。恋物語、恋物語……んんんん?」

ピーン!ときちゃった💛

ライター清水

「さっきから気になってたんですけど、奥様、常雄さんの大学時代のことまで相当詳しいですよね! 2人はいつ知り合ったんですか?」

常雄さん

「大学時代ですけど、いや、まあ、そのへんは……(奥さんを見て懇願)言って」

玲子さん

「私は彼より2つ下で、新入生が上級生に大学のことを教えてもらうオリエンテーションがあるじゃないですか。知り合ったきっかけはそこなんです」

ライター清水

「えー、大学に入学したばかりの奥さんにいきなり手を付けた(←言い方!)んですか?」

常雄さん

「いやいやいや! 声を掛けたわけじゃなくて、たまたまというか……(しどろもどろ)」

玲子さん

「たまたま打ち上げコンパで座った座席が向かい合わせだったんです」

ライター清水

「大学時代からの付き合いってことは、常雄さんのヨーロッパ修業中は遠距離恋愛ですよね。当時は手紙を書いたり?」

常雄さん

「電話かけてましたね。当時は5マルク=500円くらい出すと1分間しゃべれるんです」

 

玲子さん

「(懐かしそうに)急にかかってきて1分間だから、もうあっという間で」

ライター清水

「なるほど、遠距離恋愛が2人の愛をはぐくんで、それが今に至るハイデルベルグの礎を築いたのだと!」

 

常雄さん・玲子さん

「(声をそろえて)いやいやいや……はっはっは。おっほっほ」

おいおい、ラブラブかよ

ヨーロッパ修業から帰って来た常雄さんは、1988(昭和63)年に念願の路面店を今の場所に出す。これまでは百貨店などにテナントとして入っていたが、自分たちのやりたい洋菓子を表現するため、自分たちの店を持ちたいと2人はずっと夢見ていたのだ。あれから季節は流れ33年――店では息子の涼さんが一緒に働き、着実に味の継承が行われている。

ライター清水

「これからのハイデルベルグに望むことはありますか?」

玲子さん

「涼なりの商売をやっていってほしいですね。店のために人があるんじゃなくて、人のために店があるわけで。時代に合わせて自分のやりたい商売をやっていくことが、続いていく秘訣なのかなと思います」

常雄さん

「その中でも昔ながらの食べやすいシュークリームは続けていってほしいですね。街の人たちに愛されるケーキやパンを目指してほしいと思います」

大恋愛のご夫妻と将来を担う若き3代目。お店を支える人間模様を知れば、これから路面電車に乗ったとき、目に映る車窓の風景もちょっと変わって見えそうだ。

取材・文/清水浩司

撮影/キクイヒロシ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加