グラタン&サラダの店リゾート

No.12

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嗚呼、愛あればこそ食べる喜び…

令和の世に蘇った名物料理の

ネーミングはあの名作から

広島で学生時代を過ごしたOver40の定番ランチスポットといえば『グラタン&サラダの店 リゾート』。さまざまないきさつから閉店や復活、派生店の誕生などを繰り返していた昭和の名店が、2014年、創業者の手により再出発ののろしを上げた。おじいちゃんおばあちゃんからちびっこまで、広い世代に愛される名物メニュー・ライスグラタンはどのように生まれたのか…。絶メシ調査隊、いざ出動!

(取材/絶メシ調査隊  ライター名/山根尚子)

トーク上手なオーナーは
伝説の味の生みの親

ライター山根

「やってきました中の棚。今日の絶メシ調査隊は、広島市中区立町の中の棚商店街に位置する雑居ビル『Gハウス』前からのスタートです」

ライター山根

「いやー懐かしい。『グラタン&サラダの店 リゾート』といえば、青春を広島で過ごしたアラフォー以上世代にはTHE・ド定番。休みの日には市内に買い物に来て、お昼を『リゾート』で食べたなあ…(しばし時を忘れる)」

ちなみに広島市周辺の住民は、広島市中区紙屋町~八丁堀界隈のごく限られたエリアのことを「市内」と呼ぶ。住所上は広島市に住んでいても「市内に行く」と言うのが他地域の人からは奇異に映るらしいが、それはまた別の話。今日も絶メシ調査隊は粛々と調査を進めるのであった。

出迎えてくれたのはこのお二方

ライター山根

「初めまして! 今日は青春の味・リゾートのライスグラタンを堪能できるってことで、楽しみにしてきました。さっそく質問ですが、私が子どもの頃って、お店の場所はここじゃなかったと思うんですが…。ここは立町、最初のお店があったのは袋町ですよね?」

沼口さん

「えー?その頃知ってるの!?あなた若く見えるね!大学生かと思ったわ」

…なんていい人なんだ。

 

沼口さんのリップサービスにテンション爆上がりの山根調査員。まずは創業時のお話を伺っていく。現在71歳の沼口さんが友人と『リゾート』を始めたのは、おそらく昭和50年頃…とのこと。店は同じ広島市中区の袋町エリアにあり、当初は近隣の飲食店のためにさまざまなソースを製造しながら、350円程度の日替わりランチなどを提供する営業形態だったという。

沼口さん

「友人3人でない金を出し合って飲食店を始めたんですけどね、その頃は袋町なんて全然人が通らん場所でしたから、半年やっても鳴かず飛ばずで…。私は以前『アンデルセン』に勤めとりまして、その頃やってたドリアのことを思い出したんです。焼きめしの上にベシャメルソースとチーズをぶっかけて焼いた…要するにライスグラタンね。個人的に、いつか店をやるなら、まだ誰もやっていないことをやりたいなあと思っていたので、ライスグラタンの専門店をやることにしました」

ライター山根

「おおー、『アンデルセン』での経験が創業に関係していたんですね。『リゾート』という名前は、どうやって決めたんですか?」

沼口さん

「これはね、最初の店の物件を貸してくれていた人が付けました。私は当時は『イマイチじゃな…』と思ってたんですけど(笑)

ライター山根

「そんな(笑)」

沼口さん

「それから、中国新聞の夕刊で紹介されたりしたことをきっかけに爆発的に人気が出て、多い時は直営で3店舗。袋町と、本通りの『サンモール』の中と、今のこの立町店の隣のビルと…。フランチャイズもあったんですよ、広島県内と、山口にもありました。それから袋町は弟子に渡して、私は立町とサンモールを個人でやるようになってね」

…と、ここからフランチャイズの終了、袋町店の閉店、続いて立町店やサンモール店の閉店、沼口さんのプロデュースによる派生店のオープン、息子さんが営むまた別な店のオープンなどなどさまざまな出来事が起きたのだが、ここでは割愛。大河ドラマのような波乱万丈を乗り越えて、今の立町店を再び始めたのが…。

沼口さん

「7年くらい前、2014年からここ。いろいろあってもう辞めようやあ、って思っとったんじゃけど、娘や息子がもったいないけえもう一度やろう、って言ってくれて始めたんがいきさつかな」

ライター山根

「なるほど~~~~~~~~~~~~! 波乱万丈すぎて絶対書けませんが、いろいろご苦労なさったんですね…」

などと話しているうちに、『リゾート』の代名詞と言えるメニュー「モナコ」が焼きあがった。

 

「出た――――!モナコ!」

ライター山根

「これこれ! うう、チーズとベシャメルソースの香りが食欲をそそるなあ…。横に添えてあるオニオンサラダも『リゾート』ならでは。オニオンサラダってここで初めて食べた気すらします」

沼口さん

あの当時オニオンを生で食べる人なんてほとんどおらんかったと思うよ! リゾートが一気に人気になったのは、このグラタンとオニオンサラダの組み合わせもあるよね。グラタンが焼けるまでの時間楽しんでもらえるし、たっぷりチーズでちょっとグラタンがもたれるなって人にも、酢が効いたドレッシングがかかったオニオンが良かったんだよねえ」

イタリア?フランス??
結局日本のソウルフード

ライター山根

「でではでは。アツアツのライスグラタン『モナコ』をいただきますね!」

ふーーーー、ふーーーーー

うま~~~~~~~~~~~~

ライター山根

「あー、スプーンが止まらない。箸休めのオニオンサラダも最高の食欲増進剤です…! しかしすごいボリュームですね」

沼口さん

「俺けちるの嫌いだから(笑)。チーズもソースもたっぷりかかってないと」

ライター山根

「ところで、この『モナコ』っていうメニュー名はどこから来てるんですか?」

沼口さん

ああ、モナコはイタリアでしょ?

ライター山根

「(モナコはモナコ公国だから厳密に言うとイタリアじゃないが…。ま、まあいいか)なるほど。あと、創業時からあるメニューで『オスカ』『アンドレ』『ベルサイユ』ってのもありますよね? これはどういう由来のネーミングなんでしょうか」

沼口さん

「これはね、あなたも知ってるんじゃない? 人気のミュージカルから付けた。あの当時あった、知りません?」

「例えば…アンドレ!とかゆうて」

ライター山根

「え?まさか『ベルサイユのばら』ですか?」

沼口さん

「そうそう。オスカルはなんか難しいかな~と思って、オスカにした」

ライター山根

「(なんか難しいってのもよく分からないがそれ以前に)『ベルサイユのばら』は…フランス…ですけどね…!

沼口さん

「いいのいいの、その時代に流行った言葉なんだから。だって、このライスグラタンだって、本当のイタリアンなんかじゃないんだから! 広島のソウルフードなのよ。背伸びしてしゃれたもの作ってもしょうがないでしょ。この町に住んでる人たちに愛してもらえる料理ならそれでいいのよ」

たしかに。

創業当時からのファンである50~60代はもちろん、その子ども世代、孫世代までが家族で訪れるという現在の『リゾート』。愛され力の源は、創業者の一人である沼口さんが築き上げた、親しみやすくて敷居の低い美味しさにあるのだろう。一方で、激辛ライスグラタン、タイカレーライスグラタンなど、今の時代に沿った新メニューの開発も欠かさない。積み上げて来たものと挑戦とのバランス感覚が抜群なのだ。

高校の頃通ったあの店を
まさか自分が継ぐなんて…

ここからは、現在店をメインで切りもりしている吉川裕仁さんにバトンタッチ。店を継ぐことになったいきさつなどについて調査をすすめていく。実は吉川さんは、沼口さんの娘婿にあたる人。

吉川さん

「僕は今43歳なんですけど、高校生の頃は、この辺だと『リゾート』『ぴかんて』『サンマリオ』…。『リゾート』は、野郎だけで行ける店じゃなかったんでそうしょっちゅうは行ってなかったけどね」

ライター山根

「まさか数10年後、ご自分が『リゾート』を継ぐとは思わなかったですよね」

吉川さん

「それどころか、僕結婚してからも、お義父さんが何の仕事してるか知らなかったですから」

ライター山根

「………え?????」

吉川さん

「お義父さん忙しすぎて、ほとんど家におってんなかったんで、よく知らなかったんですよ。それが、結婚後に嫁がお義父さんの仕事を手伝うって言いだしたから、何やってるの?って聞いたら『リゾート』だって。びっくりしましたよ(笑)」

吉川さん

「料理はお義父さんとうちの嫁から教わりました。基本のごはん、ケチャップライスとバターライスを仕込んでおいて、メニューに合わせてグリルチキンやボイルしたエビなどの具材を乗せていきます」

吉川さん

「ベシャメルソースとチーズをかけて、オーブンで7~8分焼いたら出来上がりですね。マカロニグラタンだったらもうちょっと長かったり、使うチーズによっても違いますが。モナコはエダムチーズを使っています。削り方にも秘密があるので、丸い固まりから毎日店で削ってますね」

カウンター5席、テーブル40席と広い店内でも、ピーク時は行列ができる人気店。厨房の設計にも工夫が凝らされている。例えばオーブンは、焼くたびに開け閉めの必要がないよう特注された蓋のないものを使用。

吉川さん

「蓋があるオーブンだと、一回入れたら焼きあがるまで追加が入れられないでしょう? 忙しい時間帯にもできるだけお待たせしないようにこのスタイルになりました。あと、この焼きあがった皿を手繰り寄せる棒も、世界に一本です」

「メルカリに出しても、たぶん売れませんね!」

ライター山根

「メルカリに出さなくてもいいと思いますけど(笑)。今はだから、吉川さんと奥様、沼口さんが中心になってお店を経営しておられるんですね。創業から45年以上たって、いろいろとあって、ようやくこの立町店で再スタート…という状態ですが、今後『リゾート』をこうしていきたい、とかはあるんですか?」

吉川さん

できれば多店舗展開をもう一度やりたいですね。セントラルキッチンを作って、昔の『リゾート』みたいに、どこの店舗に行っても同じ美味しさを提供したいです。お客様に『間違いない』と思ってもらえるような…」

実は、最初に沼口さんからお話を聞いた時にも、自身の最後の仕事としてベシャメルソースのセントラルキッチンを作ることを挙げていた。『リゾート』の再興は二代にわたる願いなのだ。

吉川さん

「ベシャメルソースだけの販売もやりたいんですよ。だってみんな、肉も魚も野菜も好きでしょ? 『リゾート』の味を、好きな具材でアレンジして自宅で食べられたらいいと思うんですよね」

ライター山根

「お店が再び増えるだけじゃなく、お家でも食べられるようになる。みんなの家庭に『リゾート』のベシャメルソースが行きわたったら、令和の広島でもソウルフードになりそうですね…!」

個性的で陽気な沼口さんと、やる気に満ち溢れたフレッシュな吉川さん。血の繋がりがないにも関わらず、実の親子のように息の合った二人。「この代限り」を明言ずる絶メシ店が多いなか、ここからもう一度挑戦する!という気概を感じさせてくれた一店だった。今回絶メシ調査隊がお邪魔する数日前にも「昔からこの味が好きなんで!」と、某スポーツ新聞から取材を受けたとか。創業から今日まで、いろいろな出来事に見舞われながら、何度も、何度も、不死鳥のごとく蘇ってきた『リゾート』のライスグラタン。この先も広島のソウルフードとして、気高く輝き続けてほしい。

取材・文/山根尚子

撮影/キクイヒロシ

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